星のこだま

天体撮影を中心につぶやきます。

電源を考える

 天体撮影・天体観測をするうえで、欠かすことのできないものが電源(DC)だと思います。使用する機材によって容量の大小や電圧、電源の形態なども変わってくると思います。私の手持ちのバッテリーなどをご紹介しながら、電源について少し考えてみたいと思います。

 

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おなじみ?の大自工業/メルテックのポータブルバッテリーです。小~中型赤道儀や冷却CCD・CMOSカメラを使用される方でしたら、一度は使用されたことがあるのではないでしょうか。私も旧型のSG-3000DXと現行型のSG-3500LEDを所有しています。内蔵バッテリーは、シール式鉛蓄電池で基本的に12Vシガーソケット出力ですが、AC100Vのインバーターやセルブースト機能も備えています。旧型の方は長く使用しており、内蔵バッテリーを一度交換しています。容量はDC12V-20Ahと大容量で、SXPクラスの赤道儀、ノートPC、冷却CCDもしくはCMOSカメラの使用で、一晩の撮影なら冬季でも全く不足したことはありませんでした。一時期、冷却CCDを2台同時に使用していた時には、このバッテリー2台を同時に使用することもありましたが、最近ではSG-3500LEDを1台と補助の小型バッテリーでの使用が多くなりました。

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ノートPCを使用するときは、AC100VインバーターにACアダプターを接続して使用するとどうしてもポータブルバッテリーの消耗が速いので、DC-DCコンバーター(12Vから昇圧)を使用していました。19~20Vで大体のノートPCは対応できていたように思います。DCジャック径の変換コネクターを探すのは、少し苦労しました。最近は、さまざまなPC用の変換コネクターが販売されているようです。ノートPCは、あえて消費電力の低いCeleronSSDモデル)のものを使用していますが、CMOSカメラコントロール用のSharpCapや画像確認程度に使うステライメージくらいならストレスなく動いています。

メルテックのポータブルバッテリーは大容量、多機能ですが、やや重量があり、かさばることや鉛蓄電池を使用していることなどが欠点になりつつあると思われます。また最近では、小型赤道儀やUSBレンズ用ヒーター、M-GENなどをモバイルバッテリーで使用することが増えましたが、通常の5Vバッテリーだとどうしても容量不足(特にヒーター)になることもあったので、鉛蓄電池バッテリーとモバイルバッテリーの中間のようなバッテリーも導入しました。

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これは、ジャンプスターターとしての商品のようですが、モバイルバッテリーと同様のセル電池を使用しており、20,000mAhの容量があります。多彩な出力電圧があり、付属品も豊富です。5V(1.0A、2.0A 各1)、12V 10A、15V 1.0A、19V 3.5Aの出力があります。このため、赤道儀やノートPCなどにDC電源を直接供給することができます。充電は、付属のACアダプターでAC100Vコンセントから行います。

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こちらもリチウムイオン電池内蔵のポータブル電源で、27,000mAhの容量があります。AC100Vインバーター内蔵で、これにノートPC用アダプターを接続して使用することを想定した商品のようです。やはり、付属のACアダプターでAC100Vコンセントから充電します。

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AC100V-DC12Vアダプターを介してになりますが、赤道儀の高速駆動時など一時的に大きな消費電流を要する場合にも対応できます。

ところで、これらのバッテリーは、実際にどれくらい使用できるのでしょうか?

機材ごとに電圧や消費電流が違ったりするので、モバイルバッテリーなどの容量表示でよく見かける放電容量(AhもしくはmAh)だけでは評価できません。Wh容量(ワット時定格量)を求めて考えてみます。Ahは1時間に流すことのできる電流(A)で、Whは1時間に使用可能な電力(W)です。Wh = Ah × 電圧(V)となります。Whを消費電力(W)で割り算すれば、どれだけの時間使用可能か計算できます。一般的にリチウムイオン電池の内部電圧は、3.7Vです。また、表示容量の約7割程度が実際に使用可能な容量と言われているようです。

よって、27,000mAhのバッテリーでは、27Ah × 0.7 = 18.9Ah程度の容量で、18.9Ah × 3.7V = 69.9Wh、約70Whのワット時定格量になると考えられます。

カタログ上のSXP赤道儀の消費電流は、0.45~2.2A(10kg搭載時)のようですが、恒星時追尾時を0.45A、自動導入やアライメント、構図調整時などを2.2Aとして考えてみます。自動導入などに2.2Aを30分使用したとすると2.2A × 12V × 0.5h = 13.2Whとなりますので、残りのWh容量は、70 - 13.2 = 56.8Whとなります。これを恒星時追尾に使用すると56.8Wh ÷ 0.45A × 12V = 56.8Wh ÷ 5.4W = 10.5hで、約10時間半ほど使用可能な計算になります。専用バッテリー使用の一眼レフデジカメでの使用なら実用になりそうです。

冷却CMOSカメラを使用した場合も考えてみます。

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よく使用するASI1600MM Pro(もしくは旧ASI1600MM)のものと思われる消費電流曲線です。外気温との関係なども正確にはわかりませんが、この曲線から推定してみます。私は、0℃をターゲットにすることが多いですので、約0.4A~0.5Aになりそうです(冷却開始時などピーク時は一時的にもっと大きいと思われます)。フィルターホイールは、5V × 120mA = 0.6Wでフィルターチェンジの頻度は低いので無視します。0.4A~0.5A × 12V = 4.8~6.0Wの消費電力になりそうです。SXP赤道儀の恒星時追尾5.4Wと合計すると10.2~11.4Wで、56.8Wh ÷ 10.2~11.4W ≒ 5.0~5.5hとなります(インバーターによるロスでもう少し短いかもしれません)。季節にもよりますが、どうにか5時間くらいは使えそうです。ノートPCは、もともとの内蔵バッテリーもあるので、補助に20,000mAhのバッテリーを20Vに昇圧してつなげば同じく5~6時間は使えます。M-GEN・レンズヒーターは、モバイルバッテリーでも一晩使用可能です。よって、かなり心もとないですが、これらのバッテリーでもどうにか一晩は撮影できそうです。あるいは、20,000mAhの方にSXP赤道儀を単独で接続、27,000mAhの方に冷却CMOSカメラとノートPCを接続するほうが、長く持つかもしれません。いずれにしてもやはり、鉛蓄電池バッテリーの20Ah × 12V = 240Whは、0.7×の168Whだとしても大きいと思われます。ただし、ここまでの話はあくまで計算上の仮定・予測なので、実際に使ってみないとわからないというのが本当のところです。

ちなみに、このWh容量は、当該モバイルバッテリーの飛行機内への持ち込み可否を判断する際にも使えます。出力ポートの電圧ではなく、内部電圧の3.7Vで計算します。現在、国内線・国際線とも100Wh以下であれば個数制限なし、100~160Whは2個まで、160Wh以上は不可となっている航空会社が多いようです。電圧3.7Vで割り算すると、100Whは約27,000mAh相当、160Whは約43,000mAh相当になります。スマホタブレットなどの電子機器に内蔵されていない「予備電池」としてのバッテリーは、「預け入れ手荷物」として預けることができないので、手荷物の中に入れて機内に持ち込むことになります。一時期、バッテリーによる発火事故が相次いだ影響のようです。

そのほか電池容量の話として、ネットを見てみると6.0~17.4万mAh(222~624Wh)もの大容量のセル電池ポータブルバッテリーも発売されているようですが、まだ高価で大きさもそれなりにあるようです。ただ、このままバッテリーの技術が向上して小型化・長寿命化・低価格化が進むと、徐々に鉛蓄電池バッテリーのポータブル電源は、姿を消していくように思います。

 

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最後に、これは折り畳み式のポータブルソーラーチャージャーです。カタログ上は、5V 3ポート / 24Wの出力が可能な製品です。以前に比べるとかなり性能が向上しているとのことです。上の写真は、かなり日差しの強い日に使用した時のものです。モバイルバッテリー、iPhoneと他にUSB扇風機を接続して、合計で7.5~8.0Wくらい出ていました。高出力を得るには、強い日差しのほかに太陽光の入射角も重要なようで、時間とともに調整が必要です。それでも晴れていれば、キャンプなどには使えそうです。

近い将来、バッテリーや太陽光パネルの性能がもっと向上すれば、AC100Vコンセント電源がなくても昼間のうちに太陽光で充電して、夜間に天体撮影が可能になるのかもしれません。まだ太陽光の変換効率や充電時間などの点で厳しそうですが・・・